
ビジネスパートナーとも音で語り合う『DJ KUMARK』
社内の「DJ部」でコミュニケーションを深めるというお話はお聞きしましたが、「ビジネスパートナーをDJでおもてなし」なんて場面もあるんですか?
もちろんありますよ。これ、私の業務用のMacなんです。それでこれを開けるとですね。Word、Excel、チャッピー(ChatGPT)、仕事に使うソフトウェアと並んで、ちゃんと「Serato DJ」も入っているわけです。もちろん、曲も全部入っていて、MacをコントローラーにつなげばいつでもすぐにDJができるようになっています。
Macに貼ってあるステッカーは? 『DJ KUMARK』!
私のDJネームです。本当はブースまで行って実演したかったんですけど、今日は時間がなさそうなので、ここでちょっとおかけしましょうか。
(Macのスピーカーからクラシックのカンタータ『Carmina Burana(カルミナ・ブラーナ)』の冒頭曲〈O Fortuna(おお、運命の女神よ)〉の、象徴的で荘厳な合唱が響き始める)
私のアンセムの出だしなんです。曲は省略していきますけど、最後はちゃんと聞いていてくださいね。
(トラックに軽快なビートが加わり、不気味な笑い声のサンプリングとともに『DJ KUMARK! DJ KUMARK!』のリフレイン)
みなさんシーンとしているけど大丈夫ですか? みなさんついてきていますか?(笑)こういう感じで。ここから曲をつないでいって、最後はあの小室哲哉さんにつくっていただいた社歌で締めるっていう。
社歌というのは2015年に制作されたGMOインターネットグループのコーポレートソング『Internet for Everyone』ですよね。小室さんが作曲なだけでもすごいですが、ハリウッドのスタジオで録音されたとか。ここでもまた音楽が出てきましたね。
「徹底的にやる性分」が国内最大規模のダンスミュージックフェス『GMO SONIC』誕生へ
私はやるときは徹底的にやるもんですから、フェスも持ってきちゃったんです。『Ultra Music Festival』、『Tomorrowland』と並んで世界3大フェスの一つに数えられる『EDC(Electric Daisy Carnival)』を日本で開催する権利を持っていて、2017年から3年連続で『EDC JAPAN』として開催しました。コロナ禍で継続が難しくなったんですけど、今度は自分たちのブランドでやろうということで、アフターコロナの2023年から『GMO SONIC』という自前のダンスミュージックフェスティバルを始めました。2026年1月(17日・18日)には、4回目の『GMO SONIC』が控えています。
『GMO SONIC』の開催は、単に国内外のトップアーティストが集結する音楽フェスというだけでなく、「日本を元気に!」特に、「ユースカルチャーを支援したい」というフィロソフィーがあると常々語られています。これにはここまでお聞きした熊谷さんの音楽、DJだったりディスコ、ダンスでの原体験、音楽をコミュニケーションツールと考えて有効活用してきたことと関係が深そうですね。
もちろん若いときの体験、そのことを覚えてるからやっているという側面はあります。『GMO SONIC』もDJ活動、音楽を使ったコミュニケーションも、それをやるのにはいろいろな意味がありますが、企業のアンチエイジングとしてやっています。
どんな会社も創業者の年齢とともに古くなっていくものなんです。みなさんもGMOにはあまり古いイメージを持たれないと思うのですが、それは絶えずアンチエイジングをしているから。会社をアンチエイジングする効果的な方法の一つがやっぱり音楽。『GMO SONIC』を開催したり、DJ部で活動したりすること自体がアンチエイジングになっているんです。
社長さんがDJを趣味にしているとか、音楽が好きな企業は他にもあると思いますが、ここまで大々的に、表に見える形で音楽に関わる活動をやっている上場企業は珍しいと思います。でも私は、企業を上げてこうした活動をすることでアンチエイジングの効果を身をもって感じているんです。
経営とDJの親和性と普遍性「DJマシンは100年後にはピアノになっている」
海外ではゴールドマン・サックスのCEOのデビッド・ソロモン氏がDJ「D-Sol」としてクラブで回していたり、フェスに参加したりしていることが一時話題になりました。株主から、「社業に集中を」と批判がありお休みしていたみたいな話もあります。
そうそう、あれ残念ですよね。私も人に言われたら「ゴールドマン・サックスの社長だってやっているんだから!」と返していたので(笑)。やめちゃわないでよと思ってるんですけどね。
既存のトラックやビートを組み合わせて音を出し、曲を構成したり、プレイすることで場をつくっていくDJが、事業や経営とリンクしたりすることはありますか?
コンテンツを組み合わせていいものをつくっていくというのは、インターネット、デジタル、AI時代の最先端のやり方だと思います。私がみんなによく言っているのは「DJマシンは100年後にはピアノと同じになっている」ということなんです。それまでの音楽表現が弦楽器中心だったところにピアノが登場したように、デジタルな楽器が出てきて、今ではターンテーブルやDJコントローラーがピアノと同じように楽器として扱われています。さらに、DJはいいものをミキシングして完成させていく。AIがそうじゃないですか。いろんなものを学習して既存の情報をかき集めて最適解を出す。DJはAI時代の最先端の音楽表現だと思います。
ダンスだけでなくDJやクラブカルチャーも学校で教えるべき
あともう一つ、これもよく言うんですけど、ピアノを習うようにDJを教えてもいいと思うんです。日本の中学校ではダンスが必修化されて、小学生でもダンスを習う時代になりましたよね。でもDJは教えない。ダンスが必修化されたとはいえ、日本人はまだまだ音楽に乗ってダンスすることを恥ずかしいと思ってしまうところがあると思います。ダンスの振り付けやステップだけを教えて放置で、DJも教えないし、どうやって楽しんでいいかも教えていないと思うんです。
海外では、中高生の頃からノンアルコールでクラブ体験をさせるんです。お店での楽しみ方をシミュレーションするんですね。シャイで、音楽に乗って体を動かすことが自然にできない日本人こそ、こういう教育をすべきだし、ダンスと一緒にDJも教えて音への乗り方を学ぶべきだと思っているんです。
笑顔をつくる仕事、DJは体力勝負?
素晴らしい提言ですね。『I AM DJ』ではみなさんにそれぞれ「自分にとってのDJとは何か?」についてお聞きしているんですが、熊谷さんにとってDJとは何でしょう?
DJは聴いているお客さんに喜んでもらって初めて存在意義が生まれるものだと思います。音楽を媒介として、相手を笑顔にすることで自分も笑顔になれる。DJは「笑顔をつくるための仕事」ですよね。だから笑顔をつくれなかったらDJじゃない。
プロとかアマとか技術の有無とかもありますけど、笑顔をつくれればDJであるということも言える。
私が言うのもなんですけど、プロとかアマチュアとかはあまり関係ないと思うんですよね。DJをすることで喜ぶ人が多くて、それで食べていける人はプロなんだろうし、いくら技術があっても、独りよがりなプレイで自分勝手に音楽をかけていても、全然それには価値がないですよね。やっぱりいかに笑顔をつくるかが、DJの技量だし価値だと思います。
(Interview and text by Kazuki Otsuka)
熊谷正寿/DJ KUMARK
1963年生まれ。GMOインターネットグループ代表。1991年の創業以来、インターネットの黎明期から日本のネットインフラを支えてきた先駆者であり、IT時代を代表する起業家でもある。東証プライム上場企業を率いる一方、「DJ KUMARK」として社内外のイベントでプレイするDJとしての顔を持つ。10代で新宿の伝説的ディスコ「B&B(Beach & Breeze)」のDJ見習いになり、以降も絶えず音楽との関わりを持ってきた。オフィス、プライベートジェット、クルーザーなど国内外に計18箇所のDJブースを所有。社内コミュニケーションや企業のアンチエイジングとして音楽を推奨し、大型ダンスミュージックフェス「GMO SONIC」の主催者としても知られる。