【I AM DJ】介護とDJ。現役介護福祉士DJ GENが高齢者施設で届ける「新しい刺激」(後編)
2026年5月15日
DJカルチャーの多様性と魅力を発信するプロジェクト「I AM DJ」。注目のDJたちへのインタビューを通じて、個々のキャリアや哲学、ライフスタイルを深掘りし、記事とショート動画で展開。音楽文化の新たな視点を提供しながら、幅広い層にDJの世界の魅力を伝えていきます。
前編で聞いた“仲間外れをつくらない”という感覚は、DJ GENの中で理念としてだけ育ったわけではない。高齢者施設や障がい者施設、子ども支援センターの現場に音楽を持ち込み、人がどう反応するのかを見ながら、少しずつ形になっていった。後編では、その実践の場である「ロマンディスコ」がどのように生まれ、何を届けようとしているのかを聞いた。

「DJだけだと、ちょっとイタいな」と思った

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現在の活動についてお聞きします。高齢者施設で音楽をかけようと思ったのは、どういう流れからだったんですか。

DJ GEN(以下G)

コロナが本格的に広がる少し前に、実験的に自分の職場である介護施設で開催したのが最初です。ただ、これを始めるに当たって、「DJだけだとちょっとイタいな」と思ったんです。なんか、こちらの単なるエゴになってしまう気がして。

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「自分がやりたいからやる」だけになってしまうんじゃないか、と。

G

そうです。だから、ただDJが音楽を流すだけじゃなくて、視覚的にも楽しんでもらえる空間全体を作りたかったんです。ちょうど知り合いにVJがいたので、壁一面に地元の昔の映像や、施設の古い写真なんかを大きく映しながら音楽を流してみたら、それがすごく評判が良くて。

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なるほど。映像を組み合わせることで、みなさんがより楽しめる体験になったのですね。

G

一回やってみたらすごく反応がよかったので、「じゃあ次はいろんなところでやろう」と計画したのですが、直後にコロナが本格的に広まってしまって。しばらく期間が空いてしまいました。そこからコロナが明けて、「また挑戦してみよう」となったのが今の活動につながっています。

『ロマンディスコ』誕生

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その活動が『ロマンディスコ』と呼ばれるイベントになるんですね。

G

はい。今は高齢者施設に限らず、障がい者施設や子ども支援センターなどでやるイベントも『ロマンディスコ』と呼んでいます。実はコロナ明けに本格的に再始動するタイミングで、仲のいいDJ仲間であるRIP SLYMEのSUさんに協力していただき、DJ2人とVJ1人の体制でスタートしました。

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SUさんとは、もともとどういうご関係だったのでしょうか?

G

僕が20代の頃、地元の山梨でクラブイベントを主催していた時に、ゲストDJとして来ていただいたのが最初の出会いです。SUさんご自身もご家族が介護職に関わられている方が多く、福祉や介護にすごく興味があると聞いていたので、そこからより深くご一緒するようになりました。

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そのSUさんが加わったことで、名前も正式に決まったと。

G

そうです。それまではざっくり「高齢者向けのディスコ」みたいな感じだったんですけど、SUさんと一緒にやる時に二人で話し合って、「ロマンディスコ」っていう名前になりました。「ロマン」っていう言葉がちょっとエモくて、少しダサさもあって語呂もいいんですよね。かっこよすぎないし、でも覚えてもらいやすい。そこは大事でした。

BPM100から始めて、最後は歌謡曲へ戻っていく

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実際の現場では、どういうふうに音を組み立てているんですか。

G

最初は軽く身体を動かす程度の曲から始めていきます。だいたいBPM100前後ですかね。「ちょっとゆっくり身体を動かしていきましょう」みたいなMCも入れて、徐々にテンポを上げていきます。昔のディスコナンバーが多いですかね。アース・ウィンド・アンド・ファイアーのセプテンバーが120くらいかな? 身体がちょっと温まってきたら、深呼吸しましょうとか、ちょっとゆっくりしましょうとか、手をぶらぶらしたりする時間も作ります。

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最初から上げ切るのではなく、ちゃんと身体に合わせていく。

G

いきなり上げすぎるとしんどいので、前半でちょっとずつ身体を起こしていきます。後半は歌謡曲を多めにしています。演歌も入れますし、最近の曲も入れます。「お孫さんやひ孫さんが喜ばれますよ」と一言入れて、Bling-Bang-Bang-Bornとか、APT.みたいなヒットチャートに入るような曲をみんなで振り付きでやりましょう、みたいな流れでやります。

最後は美空ひばりさんの『川の流れのように』とか、中島みゆきさんの『時代』とか、高齢者の方にとって懐かしい曲で、回想していただく時間も作っています。

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かなりきちんと“流れ”をつくっているんですね。

G

やっぱりストーリーは作ります。利用者さんだけじゃなくて、ご家族やスタッフさんも含めて巻き込んでいくような空間にしたいんです。原曲だけでなく、リミックスも積極的に使います。みんなが聞いたことある曲でも「ちょっとこれ違うな」と思うところに刺激がある。懐かしいだけで終わらせたくないんですよね。

何歳になってもドキドキやワクワクは必要

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映像の役割もかなり大きいんですね。

G

大きいですね。VJは基本的に必ずセットです。前半は音に合わせて結構リンクさせたりもするんですけど、後半は地元の写真とか、昔の風景とかが多いですかね。目で見て楽しんでいただいて、耳で楽しんでいただいて、いろんな感覚から入っていってもらいたい。やっぱり施設では、大きい画面で映像を見ること自体がそんなに多くないので、そこも結構効いてると思います。

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音だけではなく、視覚も含めてフロアをつくっている。

G

そうですね。音楽って耳だけじゃないので。見て、聞いて、思い出して、身体もちょっと動かす。そういう全部が合わさって、ようやく場になる感じです。
それこそ、BPM100だと身体を横に揺らしたりするくらいですけど、120になってくると少し声がけするだけで足踏みしたりとか、腕を振ってみたりとか、こちらが促すとそれに合わせて身体を動かしてくれるんです。別に昔ディスコに通っていたとか、ダンスをやっていたとか関係なく、もう人間の本能的なところもあるのかなと思っています。
コンサート用の光るスティック、ペンライトをみなさんに配ることもあるんですけど、不思議なもので、振り方とか教えなくても自然に音楽に合わせて振ってくれるんですね。「横の人を殴らないでね」とか、そういうMCも入れつつ、ちょっとした笑いも含めて、空気がほぐれていくんです。重度の障がいのある方でも、リクライニングの車いすで四つ打ちに合わせて首を振ったりしますからね。

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音楽療法というと気持ちを落ち着けたりする“癒し”のイメージがありますけど、これも一つの音楽療法ですよね。

G

そうですね。癒しだけじゃなくて、刺激もあると思います。利用者さんって、80代から90代、100歳の人もいるんです。高齢だから……と思う人もいるかもしれませんが、何歳になってもドキドキワクワクは必要だと思っているんです。
高齢者の方には新しい刺激を、障がい者の方であれば「普通の青春」を味わってほしいなと僕は思っていて、年齢や障がいを理由に何かを我慢したりしなくていいってことだと思っているんです。音楽や映像によって刺激が入って、身体の反応が変わる。何歳になっても、身体に障がいがあっても、そういう経験をしてもらえたらいいなと思っています。

「これやって大丈夫なの?」から始まった

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介護、福祉、障がい者ケアの現場となると新しいことを始める時には、やっぱり慎重な声もあると思うんです。

G

ありましたね。最初は職場でも、「これやって大丈夫なの?」っていう意見がありました。結構大きな音量だったりとか、今までやったことがないので、ちょっと慎重になる部分っていうのはやっぱりありましたね。

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そこはどうやって乗り越えていったんですか。

G

僕の職場に関して言えば、新しいことをやること自体への理解はしてもらえたので、「まずやってみましょう」から始まりました。

映像もあんまりチカチカさせすぎないようにしたり、事前にリサーチして、例えばてんかんの発作の可能性がある人は対象外としたり、音楽が苦手な人は無理に参加しなくていいですよという緩い感じで始めました。趣旨からいっても全員強制参加はなんか違いますし、今も好きな人、興味がある人に参加していただくようにはしています。
音量に関しては、結構大きな音を出しているんですけど、みんな耳が遠いので、逆にそのくらいでちょうどいいところもあるんです(笑)。低音もドンドン響くくらいの方が、音を身体で感じやすいのかもしれません。そこは実際にやってみないと分からない部分でした。

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普通のクラブでDJをする時と、高齢者や障がい者の前でプレイするときの違いは?

G

高齢者向け、障がいのある方に向けては、MCを結構多く入れたりとかしてます。クラブでは当然音は止めちゃダメだったり、逆に施設で回すときはつなぎとかよりも展開が大事だったりするので、必要な技術は変わってきます。でも、目の前にいる人が若いか高齢者か、障がいがあるかないか、その違いだけで、目の前の人が喜んでくれればいいという点では、何も変わらないなというのは感じます。

「今までで最高の日だった」の重み

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回を重ねる中で、徐々に職場や周囲の反応も変わっていった感じですか?

G

そうですね。実際にやってみて、反応がよかったので「またやってほしい」「次いつですか」といわれたり、慎重だった人も積極的に協力してくれるようになりました。でもこれも、常に正解があるわけじゃなくて、賛否両論は絶対あるし、注意しなければいけないこともあります。まずは自分でしっかり考えてやってみること、その中でいろいろな人に理解してもらえるように進めていくことだと思います。

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参加者の方のリアクションで印象深いことは?

G

90代半ばの参加者の方に、「今日は今までで最高の日だった」って言ってもらえたことは印象に残っています。お世辞でも100年近く生きてきた人にそんなことを言われたらうれしいですし、すごいことだなと思いますよね。
涙を流して喜んでくださる方もいますし、自分が企画したことで目の前にいる人が喜んでくれるのは単純にうれしいですよね。

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メディアに出てからは、全国からオファーが来るようになったそうですね。

G

そうですね。「記事を見ました」「テレビを見ました」という声は多いです。施設から直接、「DJイベントをやってください」とオファーが来ることもあります。
担当者の方も、話してみると「もっと良くならないかな」とか、「今のままじゃ物足りない」という課題感を持っている人が多いんですよね。若手だけじゃなくて、40代、50代の人も介護や福祉の業界を変えなきゃいけないと思っている。そういう人が全国にいるんだと分かったことは収穫でした。

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ただ呼ばれていくだけではなく、会って話す中で見えてくることもある。

G

ありますね。「今までこういう刺激的なレクリエーションはなかったので本当にうれしいです」とか、「こんな利用者さんの表情を初めて見ました」とか、「立って踊ってる人がいてびっくりしました」とか。そういう声をいただくと、求めている人はちゃんといるんだなと思います。

目の前の人を幸せにしたい

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今後、ロマンディスコやその周辺の活動はどうなっていくのでしょう? 展望を教えてください。

G

高齢者施設に誰か来る=ボランティア、善意の行動みたいな流れはあると思うのですが、それだと続けられないこともありますよね。善意の行動なのは間違いないのですが、そこもしっかりビジネスとしてやっていく方が質も高くなるし、利用者さんのためになるのかなとは思ってます。
善意だけに頼るのではなく、しっかりお互いにメリットがある形にした方がいい。持続可能な動きにしていくためにも、そこは徐々に変えていきたいですね。
「誰かのために」という思いはもちろんありますが、結局それも自分のためにやってることだと最近思うようになってきたんです。今この介護業界をエンターテインメントで盛り上げることで、将来、自分が年を取った時にもっと楽しい福祉や介護の業界になっている、していきたい。なので、今のうちに、音楽はもちろん、美容とか、食、生活にある当たり前のことを介護や福祉の現場で普通にできるようになればいいなと思っています。そのために、いろんな分野の方の協力を得ながら、もっと選択肢が増えるような企画を考えていきたいと思っています。

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今いる利用者さんのためでもあり、未来の自分たちのためでもある。

G

そうですね。今の介護とか福祉の現場って、まだまだ選択肢が少ないところもあると思うんです。でも、もっといろんな楽しみ方があっていいし、もっと刺激があっていい。その幅を今のうちに少しでも広げておけたら、自分たちが年を取った時にも、もっと面白い景色が見られるんじゃないかなと思っています。

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最後に、I AM DJの定番の質問です。GENさんにとってDJとは何でしょうか。

G

一言で言えば、空間が作れて、目の前にいる人を幸せにできるものです。介護も福祉も、目の前の人を幸せにする力がある、そのためにやる仕事だと思っていて、そこは共通していると思っているんです。ただ、介護や福祉の現場でも、安心安全だけではなくて、それを大前提にもっと刺激的で、ドキドキワクワクするような「普通」があってもいいんじゃないかと思っています。
目の前にいる人を幸せにできるという点で、介護の仕事もDJもイベントのオーガナイズも全部一緒。僕は違うことをやっているようで、全部同じことをやってるんだなと思っています。

(Interview and text by Kazuki Otsuka)

DJ GEN

山梨県出身。介護の専門学校を卒業後、介護福祉士に。その後、働きながらDJ活動、イベント開催を本格化。障がいの有無に関わらず誰もが楽しめるクラブイベント「INCLUSIVE」を立ち上げる。RIP SLYMEのSU氏とVJ映像投影社と共に、高齢者施設をディスコ空間に変える「ロマンディスコ」を企画・主催。現在も静岡の介護老人保健施設で夜勤を含む介護業務に携わりながら、高齢者施設や障がい者施設、子ども支援の現場へ音楽を届ける活動を続けている。

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